『日本醫史學雜誌』第59巻 第2号291頁 通巻第1550号 平成25年6月20日発行
 第114回日本医史学会誌上発表掲載論文 学術大会平成25年5月11日12日

「届出医業類似行為業者について」


清野充典
順天堂大学医学部医史学研究室


【はじめに】

 我が国では、明治七年八月十八日に医制が発布され、「医業」に従事する者が初めて法の下で管理されることになった。平成二十四年度現在、医業を行いかつ開業権を持つ国家資格者は、医師・歯科医師・はり師・きゅう師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師である。この間、「医業類似行為業者」の登録制度があった。「届出医業類似行為業者」について述べる。


【本文】
 「医業類似行為業者」の登録制度とは、昭和二十二年に日本国憲法が発令され、従来の取り締り規則が昭和二十二年末に効力を失うことに伴い、昭和二十三年一月一日から始まった制度である。昭和三十九年までの間に、「医業類似行為」をするための登録を行った人を「届出医業類似行為業者」という。「医業類似行為」とは、人体に効果があると思われる「手技、電気、光線、刺戟、温熱療法」の5つの行為である。この登録制度は、戦前に療術行為等として生計を立てていた人達の救済目的として行われた。医業類似行為登録者は、14,700名であった。登録者は「届出医業類似行為業者」とした。これらの人達に対し、国は一定の教育をした後のあん摩師資格試験受験を推奨した。また、戦地の残留者を考慮し、昭和三十八年十二月には新たに登録を受け付けた。医業類似行為業者の登録を行った者は2,500名であった。昭和二十三年以降あん摩師等への転業、死亡等によって、「届出医業類似行為業者」はこの時点で約9,300名となっていた。昭和三十九年に「あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等に関する法律」は「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等に関する法律」に改正された。あん摩術の中には、昭和三十年に組み入れられた指圧術と共にマッサージ術が組み込まれ、あん摩マッサージ指圧師という資格が創設された。それに伴い、あん摩師を取得しなかった届出医業類似行為業者に対しては、一代に限り、医業類似行為を認めることとした。この法律名の中にある「等」は「届出医業類似行為業者」のことを意味するものであるが、「医業類似行為」を法律で規定することにより、「届出医業類似行為業者」の生活を保護したと言える。この法律は、柔道整復師法が単独立法となったため、現在は「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」となっている。「医業類似行為」については、昭和三十七年三月から昭和三十八年十二月まで一年十カ月の間、中央審議会の間で21回におよび慎重な審議が行われ、「届出医業類似行為業者」の処遇には次のような結論が出されている。「原則的には、従来通り医業類似行為を禁止するが、電気、光線、刺戟、温熱療法については、厚生大臣の定める器具、器械を用いて施術を業とすることを認める。この場合において、施術所及び施術者は都道府県知事の許可制とする。また手技関係については、保健あん摩師または医療マッサージ師に転換する途を講ずる。なお、届出既得権者をある程度尊重する。」。解釈すると、人体に効果があると思われる「手技、電気、光線、刺戟、温熱療法」の5つの「医業類似行為」に対し、届け出をした者は営業を認めるが、「手技」に関しては、あん摩マッサージ指圧師の資格試験を受けることが望ましいということである。ここでいう5つの「医業類似行為」は、323種類に及んでいる。


【結語】
 平成二年に、東洋療法試験財団が設立されたことにより、全国の都道府県より「医業類似行為業者」の名簿が一括管理され、「届出医業類似行為業者」にもあん摩マッサージ指圧師の免許証を交付した。これにより、戦前より続いた「届出医業類似行為業者」は制度上消失した。平成五年より、東洋療法試験財団が国家試験を担当することとなり、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師は、国家資格として、厚生労働省より免許の交付を受けているが、「医業類似行為業者」及び「医業類似行為」については、未だ国民、医業従事者及び地方公共団体間の解釈において、乖離がある。現在の日本において、「医業類似行為」を業とする者は存在しないと言うことを結びとしたい。


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