『日本醫史學雜誌』第62巻2号196頁 通巻第1562号 平成28年6月20日発行
 第117回日本医史学会発表掲載論文 平成28年5月21日・22日

「療術行為について」


清野充典
順天堂大学医学部医史学研究室


【はじめに】

明治七年八月十八日に医制が発布され、「医業」に従事する全ての者が初めて法の下で管理されることになった。明治政府は、医業従事者を医師に一本化する政策を打ち出したが、国内の諸事情を勘案した事に拠り、複数の免許を認可している。平成二十七年度現在、医業を行いかつ開業権を持つ国家資格者は、医師・歯科医師・はり師・きゅう師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師である。この間、療術行為に対する取り締まりが戦前戦後行われたが、今日も尚療術と称する行為に被害を被っている国民が多数いることを内閣府NPO法人日本消費者センターが報告している。療術について述べる。


【本文】
我が国では、医制発令後、明治三十九年五月二日に歯科医師法、明治四十四年八月十四日「按摩術営業取締規則」及び「鍼術、灸術営業取締規則」が制定された。また、柔道整復術は、大正九年四月に一部改正された「按摩術営業取締規則」に準用されることとなった。一方、無資格者医業の取締は明治三十九年五月二日に制定された医師法に基づいて行われ、明治四十一年九月二十九日には「警察犯処罰令」の「病者ニ対シ禁圧、祈祷、符呪等ヲ為シ又ハ神符、神水等ヲ与ヘ医療ヲ妨ケタル者」に基づき科料に処する旨の規定が適用された。大正八年、徳島県知事によるあん摩、はり、きゅう、柔道整復以外の医業に類似した行為でかつ医師法に抵触しない電気療法の照会について、内務省は、「医療類似業者ノ取締ニ関シテハ目下詮議中」と回答。昭和四年、和歌山県知事の照会には、昭和五年一月三十日に「当省トハ別個ニ貴庁ニ緒テ適宣御措置相成可然ト存候」と回答した。その事に拠り、医療類似行業者に関して各府県がそれぞれに取締りを行う事となった。東京府は、同年十一月に「療術行為に関する取締規則」を定め、療術行為を「他ノ法令ニ於テ認メラレタル資格ヲ有シ其ノ範囲内ニ於テ為ス診療又ハ施術ヲ除クノ外、疾病ノ治療又ハ保健ノ目的ヲ以テ光・熱・機械器具其ノ他ノ物ヲ使用シ若ハ応用シ又ハ四肢ヲ運用シテ他人ニ施術ヲ為スヲ謂フ」と定義して、この業を営む者は、施術の方法等を所轄の警察署に届け出なければならない事とした。療術行為という名称の法令はこれが初出である。医療類似業者に対しては八府県が取締りを行っている。警視庁の他、岐阜県、福岡県、富山県、福井県で「療術行為取締規則」を発令、山梨県、鹿児島県、徳島県で「医業類似行為取締規則」を発令した。昭和十三年一月に設置された厚生省は、昭和二十二年四月三十日に「医業類似行為をなすことを業とする者の取締に関する件」を発令した。これにより、医療類似業者が行う療術行為や医業類似行為という呼称は、「医業類似行為」に名称が統一された。昭和二十三年一月一日に開始した医業類似行為を行う「医業類似行為業者」登録制度は、昭和三十九年に終了し、平成二年に東洋療法試験財団が設立されたことにより、「届出医業類似行為業者」は消滅した。必然的に、療術行為を行っていた者も消滅した事になる


【結語】
昭和二十一年十二月二十九日に「柔道整復術営業取締規則」が厚生省より発令された。あん摩、はり、きゅう、柔道整復を業として営む者は、昭和二十三年一月一日に営業免許から資格免許へと移行している。昭和四十年以降、療術行為を含む医業は、医師・歯科医師・はり師・きゅう師・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師以外許されていない。近年、療術行為が無免許でも行える行為で有るかの如く誤認識して営む者に被害を被っている国民が後を絶たない。この事は、厚生行政に於いて好ましい状態に有るとは言えない。国会議員会館内には「療術治療室」という名称の治療所が存在するが、施術に当たっている者は、全員国家資格者である。療術行為は、資格免許を有しなければ行うことができないと言うことを結びとしたい。


<< 清野鍼灸整骨院(研究業績・刊行物・メディア)へ戻る