『日本醫史學雜誌』第63巻2号202頁 通巻第1566号 平成29年6月20日発行
 第118回日本医史学会発表掲載論文 平成29年6月10日・11日

「指圧術について」


清野充典
順天堂大学医学部医史学研究室


【はじめに】

指圧という言葉は、江戸時代末期から明治時代初期に、近代医学の導入という時代の変革に伴って生まれた言葉で、一部の手技療法を存続させるために創設された用語といえる。昭和三十九年三月に、厚生省医務局医事課は、「医業類似行為は、大別して人体に効果があると思われる手技療法、電気療法、光線療法、刺戟療法、温熱療法の5つの行為を指す」と言っている。昭和三十九年六月三十日に「届出医業類似行為業者」は営業継続の期限を撤廃した。また、昭和二十三年にやむを得ない事由によって届出が出来なかった者について改めて届出が出来るようにしたことから、新たに約2,500人が届出を行い、営業を行う事となった。5つの行為を「医業に類似した行為」と認定した一方で、手技療法の一つである指圧術は、医業類似行為の中で唯一医業と認め、「あん摩マッサージ指圧師」という資格が誕生した。指圧術について述べる。


【本文】
明治七年八月十八日に医制発令後、あん摩、はり、きゅう、柔道整復の業務については、明治四十四年八月十四日に制定された「按摩術営業取締規則」及び「鍼術、灸術営業取締規則」に基づき営業免許が与えられていた。終戦に伴い朝鮮、台湾、満州等の外地から引き上げる者に救済を図る為、昭和二十一年六月十九日に「按摩術営業取締規則及ビ鍼術、灸術営業取締規則ノ特例二関スル件」が制定され、昭和二十一年十二月二十九日に「柔道整復術営業取締規則」が制定されたことに伴う「按摩術営業取締規則、鍼術灸術営業取締規則及び柔道整復術営業取締規則の特例に関する件」に改題された法律に基づき、「医業類似行為をなすことを業とする者の取締に関する件」という法律が昭和二十二年四月三十日に公布された。医業類似行為の法整備に伴い「医業類似行為業者」の登録制度が行われ、14,700人が登録した。昭和二十三年六月に厚生省医務局長らは「医業類似行為とは、医師、歯科医師、あん摩師、はり師、きゅう師または柔道整復師等他の法令で正式にその資格を認められた者が、その業務としてする行為でないもの」と定義している。登録者は「届出医業類似行為業者」とした。これらの人達に対し、国は一定の教育をした後のあん摩師資格試験受験を推奨した。昭和三十年八月十二日に、厚生省医務局医事課は「医業類似行為」と認めた行為の中で、「指圧とは導引・柔道活法・古来のあん摩術から発したものであるが、大正初期米国の各種整体療法の学理と手技を吸収した施術である」として指圧術を法律上あん摩として取り扱うこととした。指圧術が医業と認められたことに伴い、約4,000名の「届出指圧業者」には所定の学校又は養成所を卒業していなくてもあん摩師試験の受験が認められかつ試験についても受験者に有利な特例が設けられた。昭和三十九年六月三十日に「届出医業類似行為業者」の営業継続期限が撤廃された。その際、「あん摩師」という名称の下に指圧業務を行うことに強い不満を示してあん摩師への転換が促進されなかったことに考慮かつあん摩師業務の中に含まれていたマッサージ業者をも勘案して「あん摩マッサージ指圧師」という資格が誕生した。これにより、導引術やヨーガ療法など国内外の様々な手技療法や運動療法を行う指圧が正式に医療資格者名となった。


【結語】
昭和二十三年一月一日に開始した医業類似行為を行う「医業類似行為業者」制度は、昭和三十九年に登録が終了した。届出した者には、平成二年に設立された東洋療法試験財団が、「あん摩マッサージ指圧師」免許を交付した事により、「届出医業類似行為業者」は消滅した。医業類似行為の一つとされる手技療法の一部である指圧術を行うためには、あん摩マッサージ指圧師または医師・柔道整復師資格が必要である。その他の医業類似行為は、医師・歯科医師・はり師・きゅう師・柔道整復師の国家資格がなければ、行ってはいけない。人体に影響を及ぼす恐れがある医業を行う者に対して必要な国家資格に、未だ国民、医業従事者及び地方公共団体間の解釈において、乖離がある。明治以降に用いられた指圧という用語は、昭和三十九年に国家資格の名称として用いられることになったことを結びとしたい。


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