体幹部の骨折に対する鍼治療

 

東京・清野鍼灸整骨院  今田開久・清野充典

 

 

 

 

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【はじめに】

この発表は、臨床上経験した内容であり、科学的にも東洋医学的な考え方の点でも、説明しきれない部分がありますが、多くの先生に追試検討して頂きたい内容と考えております。浅学のため、十分な内容とはいえない部分もありますが、ご理解いただき、また、ご指導いただければと思います。

 

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【目的】

骨折、脱臼、打撲、捻挫などの外傷に対する鍼灸治療は十分な注意が必要であり、近年、禁忌とされる傾向がありますが、当院は19882月に鍼灸・整骨院として開院以来、外傷に対する鍼灸治療を試みてきました。今回我々は、当院で取り扱った脊椎圧迫骨折患者の訴える、腰部から背部の痛みに対するハリ治療の効果を検討しましたので報告いたします。

 

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対象は、腰背部痛を主訴とし当院に来院した患者群で、他医療機関において脊椎圧迫骨折と診断、または臨床所見により圧迫骨折の疑いの高い患者群10例(男性3例・女性7例)、年齢5677歳(平均年齢70.1±6.9歳)であり、発症からの期間は、192日(平均41.6±30.9日)です。

 

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施術方法は、圧迫骨折部より上位の左右棘間傍点に対し、ステンレス鍼40ミリ16号鍼を用い管鍼法で弾入切皮しました。刺鍼深度は皮下に到達しない程度までとし10分間の置鍼術を行いました。評価方法は患者の自覚症状を指標としました。尚、ハリ施術後、骨折部位はサラシ、またはコルセットにて固定し経過を観察しました。

(治療期間と頻度は、自発痛を伴う間は毎日、運動時に伴う疼痛はその後その都度、施術を行ない骨折治癒時期まで継続しました。)

 

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この写真は、管鍼法にて弾入切皮しているところです。左上の写真は切皮前の状態です。左下は切皮後の写真です。約1mm程度刺入されているのがおわかり頂けるかと思います。右下の写真は置鍼をしている状態です。写真では鍼が鍼柄の重さで寝ているのがわかると思いますが、この程度のハリ刺入深度で置鍼術を行ったことがご理解いただけるかと思います。

 

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左の写真は、刺鍼の部位を表したものです。赤いしるしは骨折部位で、それよりも上位の左右棘間傍点に対し置鍼をしているところです。また、脊柱起立筋の緊張や、放散痛の程度により、外方の脊柱起立筋部にも刺鍼をいたしました。

右の写真は、サラシで固定している様子です。

 

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 左の写真は、肋骨骨折時の刺鍼の部位を表したものです。赤いしるしが骨折部位で、その上位の肋間に対し置鍼しているところです。

 

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【結果】

患者群の急性期疼痛は、いずれの症例もハリ治療直後より緩解し、放射状に広がる腰背部痛は45回のハリ治療により消失しました。また、慢性期に残る背部痛についても同様の効果が見られました。

 

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【参考】として、臨床上、次のような事を経験することができました。

 はじめに、自発痛を伴う時に、筋肉層に到達するような深度まで深く鍼を刺入した際に、疼痛が増悪をきたした症例を経験しました。

また、太い鍼(5番鍼以上)を用いた場合や、鍼通電を行った時に、自発痛が強くなり、体位変換が困難となる症例を経験しました。

さらに、骨折部位より下位に施術を行った場合では、疼痛の緩解が得ることができませんでした。

 

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【考察】

通常、骨折による疼痛は固定が十分であれば最小限に抑えられます。しかし、脊椎骨折では固定が困難であり、体位変換など、疼痛を生じる要素が数多く、また骨折部を中心に腰背部に放散痛・自発痛を伴う事も多くあります。

脊椎圧迫骨折に伴う疼痛は、骨膜・椎間関節部、及び脊椎周囲の軟部組織由来の疼痛であることが考えられますが、受傷からの経過期間や鍼・刺入深度によりハリ治療効果に差があることも考えられました。

参考に述べた、症状が悪化した例を考えた場合、骨折部の支持固定のためには、腰背部の筋肉の適度な緊張が必要であり、筋緊張を緩めすぎるような方法では、症状の緩解が認められず、場合により骨折部の不安定性が増し、疼痛増強が起こるものと考えられました。

 

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【結語】

今回、対幹部に発症する脊椎圧迫骨折および肋骨骨折に伴う疼痛に対し鍼治療を行ない、症状の緩解を得ることが出来ました。これらの事から、骨由来の疼痛に対するハリ鎮痛機構に影響があった事が考えられ、他疾患に対する臨床応用も可能であることが示唆されました。