尿管結石を対象とした鍼灸治療

―病態に適応した鍼灸手技の選択が重要−

           東京・清野鍼灸整骨院  院長 清野充典

1.尿管結石で訪れる患者は鍼灸院に多い

尿管結石のために痛みを伴い来院する方が、当院では比較的多く見られます。1988年(昭和62年)2月に開業し、はや19年。臨床生活25年目を迎えた経験を基に、尿管結石に関する鍼灸治療を述べさせていただきます。

尿管結石のために伴う痛みについての現代医学における分析方法は、おそらくどなたかが詳しく述べるのではないかと思いますので、ここでは割愛することにします。私は尿管結石を患ったことがないので、痛みの程度を適切に表現することはできませんが、患者さんを見ていると、とても痛そうです。大の大人が涙を流し、歩行困難になる状態をたびたび見かけます。出歩くことが困難だということで、患者の自宅に出向いたこともあります。とにかく痛いようです。

2.来院患者は、尿管結石の存在を熟知

尿管結石のために痛みが発症した直後は、救急車で病院に行き、現代医学による処置を受ける人が多いだろうと思われます。突然の痛みに自分も周りの人も驚き、まず病院に行って悪い病気かどうか調べてみよう、いやとにかく痛みから逃れたい、という心理が働くのは当然です。このような状態で、まず鍼灸院で処置することを思いついたとしたら、よほど鍼灸治療に理解のある人と見ていいでしょう。「尿管結石になったら鍼灸治療を受けよう」が常識になってほしいものですが、そのときは、鍼灸師のレベルが格段に上がり、医療業界において東洋医学に対する正しい認識が浸透したときでしょう。病院で検査を受けるときは、腎臓から石が出たばかりのときが多いと思われます。現代医療の処置として、薬物投与が多いようですが、痛みが消失するまでに至らないことが多いようです。

3.尿管の下3分の1に結石がおりて来た患者が多い

しばらくすると痛みが治まります。石が尿管をおりているときは、どうも痛みが収まるようです。患者さんは、病院を退院し、自宅でおなかや腰をさすりながら、早くおしっこと一緒に石が外に出ないかなあ、と祈る時間を過ごします。医師は、「水分をたくさん取りなさい」「ビールをたくさん飲みなさい」「飛び跳ねなさい」と指導することが多いようです。患者さんの話を聞くと、あまり功を奏しない印象があります。痛みがあるのにビールをたくさん飲んでいいのかなあといつも思っています。鎮痛剤を服用しているのにもかかわらず、再び激痛が襲ってきます。鍼灸治療を受けようかなあと思うのは、こんなときが多いようです。このとき検査をすると、石は、尿管の下3分の1辺りにあります。ちょうど血管が細くなり、扁平状を呈する部位です。この部分は石が引っかかりやすいようです。

排尿時、排石する際は痛みをともなうため、男性ならすぐわかるそうです。患者さんがうれしさのあまり、便器に手を入れ持ってきてくれることがあります。石といっても硬いものではなく、軽石のようです。かたちは、必ずしも丸くありません。尿管の中をころころ転がりながら膀胱にたどり着くのでしょうが、現物を見ると、尿量が多くなったからといって、スムーズに進むような印象はもちえません。尿管に引っかかるのも道理だなあと思います。

4.痛みが強いときほど治り易い

さて、患者さんは身内や友人に抱え込まれながら来院します。はじめは、ぎっくり腰なのかなあと思います。尿管結石の場合はたいてい患者さんが病状を説明してくれますので、すぐ状態把握ができます。初めてのときは、あんまり痛がるのでこんな人を治療してもいいのかなあと思ってしまうかもしれません。同じ肢位を長い時間取れないこともしばしばです。でも、私の経験では、痛みが強いときほど、鍼灸治療で排石される可能性が高いように感じています。痛みは、治りたい・元に戻りたいときに現れる体の防衛本能です。鍼灸治療は、その力を高めてやるだけですので、あまり心配することはありません。

5.治療は水道穴に灸頭鍼療法

腰を痛がっている人が多いのですが、仰向けにしてお腹をよく見てみてください。石がある方の水道穴付近に強い圧痛が見られます。そこに、1寸6分以上で5番針程度のステンレス針を刺入します。響きを与えるように刺入するとむずがゆい気持ちよさを感じるようです。刺入角度は、皮膚面に対し、垂直にします。ここに、灸頭鍼療法を行います。お灸は1回に2〜3度行います。足が冷えているとか、ほかに全身症状があれば、付随した処置を行ってもかまいませんが、基本的にはこれだけで、翌日に排石することが多いようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6.結石の直径が6ミリ以上の場合は破砕術実施後に治療

ただし、結石の直径が5ミリを越えている場合の自然排石は困難だと思われます。体型によるでしょうが、尿管の一番狭い部分が直径5ミリ程度と考えられているからです。石が7〜8ミリ程度あるといわれている患者さんは、レーザーで、砕いてもらうことを薦めます。レーザー治療直後に検査すると、尿管の中で砂のようになっているのがわかります。ただし、肝心の痛みは残念ながら消失しないようです。腹部や腰部に鈍痛が残るため、再び来院されます。放置していても、痛みも石もなくならないためです。同様の治療を4〜5回行った後レントゲンを撮りますと、石は消失しています。同時に痛みも消失します。

7.臨床結果は学会発表を行う

治療法は、シンプルですからどなたでもできるはずです。この結果は、2004年(平成16年)612日に行われた第53回全日本鍼灸学会千葉大会で、鍼灸の技術面を検討し発表致しました。また、2004年(平成16年)626日に行われた第55回日本東洋医学会横浜大会では、病態を学問的に検討し発表致しました。発表終了後から質疑が多数あり、多くの先生方に関心をお持ちいただきました。臨床結果を文章にすることは大変ですが、大変意義深いことができたと自負致しております。興味をお持ちになった方は、当院のホームページをご覧くだされば、閲覧できます。http://www1.vecceed.ne.jp/~seino-87/ 文字だけでは理解しづらいかとも思います。お手紙での質問もお受けいたします。

8.幾多の失敗から生まれた方法

ここにいたるまで、いろいろ失敗を繰り返しました。大きく分けて、2つあります。1つ目は選穴です。どこに刺したら効くのかという問題は、鍼灸師にとって一番の関心ごとです。腰部、手足の要穴、腹部の特に募穴、特効穴等々様々です。水道穴を使用して効果を得られたのは、瓢箪から駒のようなものです。

2つ目は、鍼灸治療を行う際の術式です。刺入後の運針による方法、置鍼術、

直接灸、温灸等いろいろな方法を試しました。いずれも思ったほどの効果を得られませんでした。同じ肢位を継続して保つことが困難なため、低周波置鍼療法だけは行っていません。危険を避けることを重視したためでもあります。臨床経験から来る直感が、この方法を選択肢に入れなかったようです。

9.手技を変えることで活路を見出す

1本の針で、1穴もしくは少数穴に、同じ手技で、すべての病体に対応できるのが理想だと心得ております。しかし、臨床経験の浅い先生は、そのことが困難なことも事実です。実力が伴わないときは、治療手技を変えることで驚くほどの効果が得られることがあります。現在困難な症例に苦慮している先生方に、ぜひお届けしたい言葉です。鍼灸治療の可能性を広げていただくことが私の願いです。

尿管結石は、現代医学で即効性が得られず、湯液(漢方薬)治療でも数週間を要しているようです。鍼灸師の中にも、鍼灸治療で好結果が得られること知らない先生が多いことを憂慮し、学会発表を致しました。2003年には、尿管結石と同様に、鍼灸治療では効果がないと思われていた、圧迫骨折についての鍼灸手技を紹介いたしました。発表に出会った先生方が、鍼灸治療に対する認識を変えていただき、東洋医学者や患者さんにより精度の高い認識をお持ちいただきたいと考え、学会発表しておりです。

10.学術一体

歴史上行われた各種鍼灸手技は、みな必要があって生まれています。治療法を選択して行うことの必要性を、数年前から、ときあるごとに申し上げております。当院では、「学術一体」を掲げ、毎日臨床にあたっております。鍼灸手技に直結した病態把握および共通した東洋医学用語の確立が命題です。

20031024日に出版した『鍼灸事故防止マニュアル』をお読みいただければ、鍼灸治療上における事故防止と鍼灸治療での対処法がわかります。これも、治療手技を選択することにより解消できる治療法を書き表したものです。また、出版当時までの国内におけるすべての事故を搭載しておりますので、これから臨床家を目指す人、教育者、スタッフを多く抱えて臨床に携わっている先生にぜひお読みいただき、鍼灸治療のすばらしさを国民に伝えていただきたいとお願いするところです。

11.灸頭鍼療法に用いる針は16分以上、5番針以上が適当

失敗の中から生まれた2つの話をしましたが、針の太さと長さについてひとつ付け加えてお話致します。いろいろな太さを試しましたが、3番針以下では前述のように灸頭鍼療法をしても効果がありません。長さも1寸3分では無理のようです。体型によりますが、腹部の緊張が強いためか5番針以上でないと手ごたえがありません。深さも、腹部の状態によりますが、1寸6分から2寸、人によっては2寸5分程度刺入しないと響きを感じないようです。1度成功すると適切な用針が選択できるようになると思います。

12.腎臓結石・胆石にも灸頭鍼療法が効果的

腎臓結石の場合は腰に強い痛みを生じます。痛みのあるほうの腎兪に灸頭鍼療法を同様に行うと、23回の治療後、結石が尿管におりてきます。その後は前述のような経過をたどります。尿道から排石するまで、根気よくお付き合いが必要です。

胆石は、背中に痛みが出たとき、胆兪に灸頭鍼療法をしますが、右日月に治療点を求めたほうが、経験上有効だと認識しています。文字数の関係上詳しいことは割愛致しますが、腎臓結石・胆石における臨床報告も、早い段階にまとめ、学会発表を行いたいと考えております。

13.より効果的な治療法の確立を祈念

今回の報告が、より効果的な治療法確立の礎になり、尿管結石についての数多い報告につながることを祈念しています。